2021/07/08 17:08
こんにちは。Gordon's gardenpartyです。
前回に引き続き、M320のご紹介です。今回は1980年代からWillis and Batesが解散する1997年までにフォーカスします。
その前に・・・これまでの記事はこちら。
1978年にはM1が現役を退き、軍用機も完全にM320にシフトするのですが(といっても、1979年の21C-M1を見たことがあるので、スパッと移行したわけではなく、パーツ在庫が切れ次第だったんだと思われます)、1980年代に入るともうフォルムは完成していたこともあって、大きな仕様変更はありませんが、この頃になるともう民間向けのモデルはなくなり、完全に軍用にシフトしています。
ではさっそく1980年代以降のM320を掘り下げていきましょう。
■M320(中期型 1980年代)
1980年代のM320は、無傷のモノが非常に少ないのが特徴の1つです。
時代はまさに冷戦下。M1の紹介記事でも書きましたが、当時はまだイギリスの統治下にあったアフリカやカリブ海の植民地が次々と独立していったことも重なり、軍部は多忙を極めたことが容易に想像できます。
時代はまさに冷戦下。M1の紹介記事でも書きましたが、当時はまだイギリスの統治下にあったアフリカやカリブ海の植民地が次々と独立していったことも重なり、軍部は多忙を極めたことが容易に想像できます。
納品されたM320はそのまま倉庫に留め置かれることなく、すぐさま現場に投入されたのでしょう。
この頃のM320にはシルバーに加えてアーミーグリーンが登場するのですが、当時も今と同じく下塗りをせずにペイントをしていたため、とにかく剥がれやすいタンクのペイントはパケパケに剥がれてしまい、そこに軍が軍仕様のペンキを使って上塗り(しかも刷毛塗り)するものだから、それはそれはえも言われぬ状態の個体が多く、私もさすがにそのまま販売するのは気が引けるので塗装をはがしてブラス仕上げにしてから販売していたりします。
これがM1だと「味」にもなるんですが、なぜかM320だとちょっと似合いません。綺麗に塗れてりゃいいんですけどね。完全に私の主観です。
上の写真が届いたときの写真。タンクどころかフレームまで塗られちゃっています。シルバーのほうなんか、Earth Wind & Fireのコスチュームのようなギンギンのシルバーです。
実際に軍で使用されていた躍動感はほとばしっているものの、さすがにこのまま販売するわけにはいかず、下の写真のようにブラス・ポリッシュしています。
実際に軍で使用されていた躍動感はほとばしっているものの、さすがにこのまま販売するわけにはいかず、下の写真のようにブラス・ポリッシュしています。
ちなみにWillis and Batesが製造していた頃のVAPALUXには、ブラス剥き出しのモデルはありません。ですのでヴィンテージのブラスは、元のオーナーか私のような売主が塗装を剥がして磨き上げたモノと思っていただいて差し支えありません。
ブラス仕様が生まれたのはBairstow Brothersが主に民間向け輸出用として製造したM1Bが最初で、その後韓国でもブラスタンクの各復刻モデルが販売されていますが、ヨーロッパでは物理的に原価のかかる塗装されているモノに価値があり、その中でもクロム加工が最も価値が高いとされる傾向があります。
ですのでブラスポリッシュされた個体は本来は価値が低いはずなのですが、最近の海外オークションを見ると、アジアからの買付けが多いからなのか、ブラスポリッシュされたモノが増えてきていますね・・・
いずれにせよ、このあたりは「金」に対する文化的価値観の違いが思いっきりあらわれているような気がします。
話を戻すと、最初の写真のM320は、その中でもある程度状態を維持できていたなかなか貴重な個体ですが、前回ご紹介した1970年代のM320との違いはフードとプレヒーターカップ。
1970年代に登場したワンピース型のフードはTOPや角のエナメルが衝突や雨などの影響で割れやすいという特徴があり、これを改善するために1980年代中盤にエッジを丸くしたこの現行フードが登場します。
1970年代に登場したワンピース型のフードはTOPや角のエナメルが衝突や雨などの影響で割れやすいという特徴があり、これを改善するために1980年代中盤にエッジを丸くしたこの現行フードが登場します。
プレヒーターカップの足もなくなり、これも現行同様に変わっています。
グローブはまだ凸型のまま。
話は逸れますがこの凸型グローブ、割れやすいんですよね。フレームに乗るように階段状にできているんですが、角が多ければそれだけ割れを誘発する箇所が多いわけで、日本に持ち込む際によく割れるのは、この凸型グローブとTILLEYのX246用171グローブ。
到着した時に割れてると、精神的なショックと手を怪我したりして肉体的なショックの両方に苛まれます。
到着した時に割れてると、精神的なショックと手を怪我したりして肉体的なショックの両方に苛まれます。
とはいえ軍で使っていたくらいで、キャンプへの往復時に割れてしまうほど弱くはないので、使用上の問題はありません。あくまで粗雑に扱われてしまう国際輸送時の問題ですね。
M320の軍モノと言えば「タンク裏のブロードアロー刻印」と「金(銀)プレート」が有名ですね。
タンク裏の刻印はいつ頃から刻印されはじめたのか、正直わかっていません。M1ではスタンプでしたが、M320になってからはこの刻印に変わっています。最初からなのかな?
当然ながら民間用には刻印がないわけですが、実は軍からの払い出し品を直接仕入れても刻印のないモノもあったりします。これも80年代の個体の特徴です。
民間向けの流通が止まり、余っていた民間用タンクの在庫を使って軍に納めたからでしょう。民間から完全に手を引いた1990年以降の個体にはこういう傾向が見られません。
いずれにせよ、刻印があるモノは間違いなく軍モノなので、ミリタリーフリークの皆さんはここを1つの判断基準にされて間違いはないと思います。
金(銀)プレートもいつ頃から付き始めたのか不明です。金(銀)プレートというのは日本独自の通称で、金はブラス製、銀はアルミ製で、イギリスでは「ID Ring」と呼ばれています。IDは書いてないんですが。
このプレートは現在はリプロダクト品も流通していて軍モノの証にはならない状況になっていますので、一種のデコレーションパーツと思ったほうがよさそうです。
これがあるだけで腰元が引き締まりますもんね。かっこいいベルトのバックルみたいな存在です。
タンク裏もプレートも、記載されているのは「NEVER USE PETROL(ガソリンはダメよ)」です。
この手の注意書きは、他国のランタンでも似たようなことが書かれたDECALや刻印見受けられますので、国によらずよほど誤ってガソリンを入れて炎上しちゃう事故が頻発したんでしょう。
M1や初期のM320には軍の手で目立つようにタンクに直接ペンキやマジックで書かれている個体をみかけますが、どう考えても1台1台書くのは面倒でしょうから、タンク裏の刻印やプレートは軍からの要請で用意されたものと思われます。
■M320(後期型 1990年代)
1990年代に入るとグローブが現行のストレートグローブに変わり、フレームにはワイヤー状のグローブガードがつき、全てのパーツが現行仕様と同様に変更されます。
このストレートグローブはそれまでの凸型グローブに比べて肉厚に作られているのが特徴です。凸型グローブにあったステップがなくなり、且つ肉厚になったことでかなり割れづらくなりました。
グローブはフレームの段差にそのまま乗せることもできなくはないですが、円筒状だと下まで筒抜けでタンク付近のパーツが直接熱せられてしまうため、アルミ製の台座がつきました。
この台座ですが、単にグローブホルダーや遮熱板としての機能だけでなく、マントルの灯りを下から反射させるため、かなり強いリフレクション効果を発揮します。明るさ倍増です。
1990年代後半以降に製造されたM320の軍放出品には未使用品(New Old Stock・デッドストック)が出てくることがあります。
つまり、このあたりから軍部でも灯油ランタンの使用が減ったということを示しているのですが、理由はご存知のとおりLEDの影響です。
LEDが照明として商品化され販売され始めたのが1996年頃ということですので、時期的にもピッタリ一致します。
NATO軍・イギリス軍だけでなく、世界中の軍が徐々にLEDランタンに移行していったことで、灯油ランタンの唯一の居場所だった軍部からもお役御免となってしまいました。
こうした情勢の変化から、1997年をもってWillis and BatesはVAPALUXに関する全ての権利とその製造拠点だったPellon Worksを、同じ地元のBairstow Brothersに譲渡し解散します。
1937年の創設からちょうど60年間。日本でいえばほぼほぼ昭和の期間にあたります。
軍の要請からその生産がはじまったWillis and BatesのVAPALUXは、激動の時代を生き抜き、そして軍の要請によってその第一幕を閉じることになりました。
私が持つ、もしくは私を通じて嫁いでいった、Willis and Batesの手によって製造された各モデルを並べてみました。(E41はそのうち手に入れます)
こうして並べて見るとやはりM320は突然変異ですね。
M320以外のモデルも、製造された時代を映す面影があり、「どれが一番?」と聞かれてもどれも選べないというのが本音です。手元にくると今でも手放したくなくなります。
そして特筆すべきなのは、これらのモデルは全て消耗パーツがほぼ共通(一部キャップサイズの違いでキャップ用ワッシャーが変わる)という点です。
全て「約300CP」で明るさが同じなので、パーツが同じなんですね。これは現行の韓国製も同じです。
サイズもほぼ同じなので、リフレクターも共通で利用できます。メンテナンスする側にしてみれば、これほど便利でありがたいことはありません。
時代のニーズに合わせてモデルを開発し続けたWIllis and BatesによるVAPALUXの紹介はこれで終了です。
とはいえ、私も扱うこともあるBairstow Brothers時代のVAPALUXまではまとめておきたいので、次回はそのBairstow BrothersによるM320やこれまでの記事で紹介しきれなかった小ネタをまとめてみます。