2021/05/03 13:49



こんにちは。Gordon's gardenpartyです。
今回は前回すっ飛ばしちゃったBialaddin 310と315にフォーカスして、320へとつながる流れをご紹介します。
といってもこれらは民間向けのモデルなのでそれほど複雑なストーリーもないですが、徐々に320に近づいていく変化が伝えられればと思っています。






Bialaddin 310が発売されたのは1954年。徐々に320に近づいていく雰囲気を持っているので意外ですが、67年ほど前のモデルです。なかなかのヴィンテージ。
305(民間用)が発売されたのが1951年。約3年でモデルチェンジを迎えています。

ご覧いただいてわかるとおり、実はフレームは305(軍用)と同じです。
主に民間市場のマーケティング戦略を展開していたAladdin Industriesの意向と、軍向けのニーズに対応していたWillis and Batesの意向が重なり合ったように感じます。

Aladdin側からすれば、3年はモデルチェンジに適した頃合いだったんでしょう。Willis and Bates側からしても、タンクもフレームもフードも305(軍用)と同じデザインの310へのモデルチェンジは、煩雑だった製造ラインを効率化できることからWELCOMEだったに違いありません。





305(軍用)との違いはフレームの中。
カラー(風防)の半径をかなり小さい筒状にして、この中にプレヒーターカップが収まるようになっています。プレヒートしづらかった300X、305の欠点を改善しようとしたのでしょう。アルコールを注ぐノズルが入る隙間もありますので、アルコールを注ぐのにいちいちグローブを持ち上げたりする必要はありません。

フレーム全体を寸胴状にグローブが覆っていた300Xや305と比べて、フレーム内部に大きな空間を作ったことで、視覚的にもとてもスッキリ、スタイリッシュに変貌しています。
305(軍用)のデザインもとてもユニークな素晴らしいモノでしたが、小さな仕様変更で大きな視覚的変化をもたらしている310のデザインも負けず劣らず素晴らしいです。




半径を小さくしたことでグローブの形状も変化。半分程度の長さでマントルを覆うような形になりましたが、まだ315や320のようにフレームにグローブをひっかける段差はないので、グローブは円筒状のカラーに乗っかることで支えられています。
このグローブはこの当時に販売されていたテーブルランプ(Bialaddin T10)と共通のパーツで、その後の315や320の凸型グローブとはまた違い、エッジが柔らかくラウンドしている特徴を持っています。
このグローブ、310とT10でしか使われていなかったこともあって、リプロダクト品もなく、実はめちゃくちゃ貴重です。
ヴィンテージ市場で販売されているモノの中には315や320の凸型グローブに替えられているモノも見かけますので、オリジナルをお探しになられている方はよくチェックしてからご購入されることをお薦めします。

310は写真のようなクロムカラーと、Army Greenとはまた違う、ライムに近い鮮やかなグリーンのカラーバリエーションがあります。ひょっとすると他にもあるかもしれませんが、私はこの2種類しか見たことがありません。
タンクカラーに合わせてフードの色もライムに近い色をしています。この色も310でしか見かけないですが、なんだかとてもよく似合ってる気がします。

しかしなぜ軍は310を採用せず、305(軍用)を使い続けたのでしょう?305のフレームを受け継いだ310なら強度面の問題はなかったはず。
理由は全くもって不明ですが、Ian Ashton氏曰く「軍はお気に召さなかったらしい」だそうです 笑
310のArmy Greenがあったらどうだったんでしょうね。意外と似合いそうだと思うのは私だけでしょうか。


発売して約3年。Bialaddin 310もAladdin Industriesの戦略の例に漏れず、モデルチェンジを迎えます。
たった3年。しかも民間向けのみ発売された60年以上前のモデル。まともな状態の個体を市場で見かけるのは非常に稀です。



■Bialaddin 315(1958年〜1965年)



赤のフードがとても似合うBialaddin 315ですが、ついにカラーがなくなり、プレヒーターカップが露出されます。
極端にカラーを小さくしたBialaddin 310を見たWillis and BatesとAladdin Industriesの両者が「これ、もうカラーいらないよね?」と、意見が一致したんでしょうか。
カラーは風防の役割と、プレヒートがヴァポライザーの先端に届くように底上げの役割を持つパーツですから、要はプレヒート時に風の影響を受けなければいいわけです。そこでWillis and Batesはプレヒーターカップのほうに工夫を凝らしました。





その工夫が昇降機能を持つプレヒーターカップです。この形状のプレヒーターカップは、実は初代のE41から使用されています。途中300Xや305ではプレート状に変更されましたが、310からまた採用されました。
そんなWillis and Bates特有のプレヒーターカップに、彼らはヒンジを付けてグローブの中と外を行き来できる昇降機能を付けました。
このヒンジを持つプレヒーターカップは創業者の1人、Alfredの息子のStanton Batesの発明としてこのパーツのみで特許を申請しています。そのため、このプレヒーターカップには支えの部分にカップ単体のパテントナンバーが入っています。

また上の写真でわかる通り、315とこの後に発売されるBialaddin 320にはモデル名が記載されたデカールがタンクに貼られています。
EUを中心に、Aladdin Industriesのお膝元であるアメリカ大陸を除く国々に展開していたBialaddinですが、国内向けには「MADE IN GT.BRITAIN」、国外向けには「MADE IN ENGLAND」と書かれたデカールが貼られていたようです。




フレームにはグローブを受ける段差が付きました。またフレームのデザインも短調な真っ直ぐから少しシャープなデザインに微小な変更がされています。320にかなり近づいてきています。
グローブは310の柔らかいラウンドエッジだとフレームの段差にうまく乗らなかったからでしょう。階段状にエッジを立たせてしっかり乗るように微調整されています。




315のタンクカラーはシルバーが多いですが、クリームやクロムもあります。
そして他のモデルと違い、315はタンク、ポンプ、給油口キャップのみならず、コントロールコック、プレヒーターカップ、そしてフレームまでシルバーでペイントされているのが特徴です。維持できている個体は本当に少ないですが。
またタンク裏には「MADE IN ENGLAND」のスタンプがあります。このスタンプはBialaddin 320にも見られますが、310にはありません。
私が持っている310はクロム加工されているからで、ひょっとすると310にもスタンプがあるのかも?

315も、デザインは変わっているもののフレームはまだタンクに3つのボルトで締め付ける、305(軍用)の仕様を引き継いでいます。
305(軍用)から310、310から315へと、微小な仕様変更で大きな視覚的変化を果たしているのは、見事としかいいようがありません。きっと当時の人たちも新しいモデルに好意の目を向けたことでしょう。

310と315、特に315は本国イギリスに熱狂的なファンもいるモデルです。
M320に急激に近づいていくデザインの変化に妙な魅力を感じるからなのか、Classic Pressure LampsのForumでも「My favorite」と評する方々をよく見かけます。
私も、なんとなくサイトを少しポップにしてくれるキャラクターのこの2つのモデルはとても好きです。



さて、次はいよいよ320。
1965年に発売されたBialaddin 320から始まり、その後Aladdin Industriesとの提携解消、1997年のBirstow Brothersへの譲渡、2010年の韓国企業への譲渡を経て、なんと56年も経った今も作り続けられる、ブロードウェイのCATSも驚く?超ロングラン製品の登場です。
変わってないようで年代によって微妙な仕様があるので、それにフォーカスを当ててご紹介するつもりです。