2021/06/29 14:27



こんにちは。Gordon's gardenpartyです。
前回からだいぶ間が空いてしまいました。なんと2ヶ月!!!
予想通りです。

いやいや、本当はいい調子で最後まで進め切りたかったのですが、M320をまとめると言ってもあまりにも有名でロングランなこの名機をどう切り出すべきか、どうにも考えがまとまりませんでした。
これでも釣りしながら随分考えたんですが、結局まとまらないので、まとまらないなりにまとめてみよう?と思います。

その前に・・・これまでの記事はこちら。




スタイリッシュで完成されたフォルムを持つVAPALUX M320は、もはやもっとも有名な、キャンプサイトを照らす灯りの1つと言える存在です。
この、シンプルで美しいフォルムにたどり着くまでの、Willis and Batesのモデル開発の変遷はこれまでの記事でご紹介した通りですが、確かにM320に近づいていく変化はあるものの「進化」と呼べるほどの変化ではありません。M320のフォルムはそれまでの「変化」の追従ではなく、機能美を極めた「進化」と呼べるほど大きく変わります。

この進化をもたらした大きな要因は「軽量化」。
VAPALUXのモデルチェンジの歴史は、軍事駐屯利用を目的とした「軽量化」「単純化」「堅牢化」の歴史と言って過言ではありません。
それまでの軍用機だったM1とM320を両手に持つとわかるのですが、驚くほど重さが異なります。M320は圧倒的に軽い。
また民間に電気が行き渡り、もはや民間用としての灯油ランタンは行き場を失ったという社会的背景もあって、いよいよ軍用中心にシフトしていったことも、余計な装飾を排除して単純化を推し進められた要因かと思われます。

今更私が声を大にして言うことではありませんが、M320で起こった進化は、軽量化と、それによってもたらされた余計なモノのない機能美にあると言えます。

北欧ではちょうどこの時期(1960年代後半)、OptimusによるPrimusの液体燃料部門の買収など、やはり電気やLPガスの普及による同じような社会環境の変化に順応するための変化がありました。
1950年代に中東で見つかった大油田の影響で、世界各地で石油による大規模な火力発電が可能になり、一気にエネルギー事情は様変わりし、灯りは「おこすモノ」から「供給されるモノ」に変わったのです。



■Bialaddin 320(1965年〜1968年)


そんな社会的背景が忍び寄りつつある1965年に、民間市場をテリトリーにしていたBialaddinが、315に続いてリリースしたモデルがBialaddin 320。ほぼほぼその後のVAPALUX M320と変わらない、320の最初期型です。
Bialaddin 320は、それまでの310や315同様、民間向けのモデルとして発売されています(この時期の軍用はあいかわらずBialaddin 305)。
フードは赤が多いですが、なぜかこちらは緑でした。まあ当時から赤も緑も黒もあったので、緑も流通していたのでしょう。この子には、そのうち程度のいいヴィンテージの赤フードを入手してお着替えしてあげるつもりです。

それ以前のモデルと比べた際の320の特徴は前述のとおりですが、ここからはパーツレベルで見ていきます。

320の一番の特徴はやはりフレームとタンクでしょう。
撫で肩なフォルムはそれだけで美しいですが、機能的に言えばそれだけ金属箇所を削りタンク容量を減らしたということに他なりません。タンクが空の状態だけではなく、灯油が入った状態ではさらにその軽さは際立ちます。
フレームはそれまで3本のボルトで固定していたフレーム台座を大きなリングで固定するように簡略化することで、ドライバー不要で簡単に分解できるようになりました。フレームはアルミなのでそこまで重量に影響はないですが、ここは「単純化」にあたる部分ですね。


しかし、機能的に言えばそういうことですが、灯油ランタンに興味を持って初めて320を見たときに、直感的に「ほしい!」と思ってしまうのはなぜなんでしょう?





フレームトップの直径に比べ、ボトムの直径が小さく設計されたため、フレームは逆円錐状にタンクに向かって狭まっています。タンクは底面を最大半径として、フレームに向かって円錐状に狭まっています。

と〜〜〜っても大袈裟な表現をすると、これ、ルーブル美術館前のショッピングセンターにある逆ピラミッドと同じ構造なんです。(ダヴィンチ・コードのエンディングに出てきた、その下にマグダラのマリアが眠るとされたアレです)
ショッピングセンターの採光を目的に作られたガラス張りの逆ピラミッドと、それを受ける形でその下に置かれた石のピラミッド。互いの正四角錐の頂点が点で交わるようにデザインされています。
人間の体型も、腹回りを最小半径として、上下に広がる形(いわゆる逆三角形)が好まれます。
人間には潜在的にこうしたデザインを直感的に好む傾向があるのかもしれません。「安定・安心」というイメージではなく「先鋭・危なげ」なイメージが、「スタイリッシュ」と表現される要因のような気がします。

・・・読み返して気づいたんですが、こんな大袈裟な表現をしなくても、ワイングラスと言えばよかったのかもしれません 笑

とにかく、クビレが好きなのは万国共通のようですね。


M320はベイル(ハンドル)ではなく、無意識にフレームを持って持ち運ぶことがあります。M1や305など、それ以前のモデルのフレームではあまりしない持ち方です。このフレームのシェイプと胴体に大きく空いた空洞がとても持ちやすい形状になっています。
もちろん灯火直後は激アツなのでNGですが、こうした取扱い方の変化もまた、機能美によってもたらされた恩恵と言えます。





話をBialaddin 320に戻しますが、315同様、フューエルキャップやポンプ、コックなど、表面から見えるパーツにも塗装がされています。
これらの塗装(熱を受けるコックは特に)は使用に伴って剥げてしまうので、まだらに剥げたモノが多く、タンクと同じレベルで塗装を維持している個体は少ないですね。
グローブは315と同じ凸型。Bialaddinのロゴ入りがオリジナルです。

タンクには、これも315同様、モデル名を示したデカールが貼られています。ルールも同じようで、EU向けはMADE IN ENGLAND、イギリス国内向けはMADE IN G.BRITAINだったようです。
またタンク裏にもスタンプが押されています。
こちらのサンプルの個体は、タンク裏の塗装が剥がれているのにスタンプだけ残っています。これどうやったんだろ???塗装が剥がれちゃったからBialaddinに持ち込んでスタンプだけ再度押してもらったんですかね。
でなければ塗装剥がして印鑑だけ残すなんて、正月のかくし芸でやってた堺正章のテーブルクロス引きみたいな芸当です。
大半の人は知らないか。

Bialadin 320が発売されて3年後、いよいよ業務提携解消に伴い、Bialaddinの終焉の時を迎えます。



■VAPALUX M320(初期型 1968年〜1970年代後半)


Aladdin Industriesが灯油ランタンから手を引いた後、Willis and BateはあらためてVAPALUXブランドを再興します。
VAPALUXを再興した当時、軍向けにはM1をメインに、徐々にM320が納品され始めたようです。民間用もわずかですが製造していたようで、上の写真はおそらく民間用のモノです。
付属品もケースも取扱説明書も、ロゴを変えただけでBialaddinのモノとほぼ同じ。

VAPALUX M320としての最初のモデルとBialaddin 320との違いは、ノブの刻印がVAPALUXに変わったことと、Bialaddin 320では塗装されていたポンプとフューエルキャップ、コックがブラス剥き出しになったことくらいでしょうか。ポンプカバーの形状もわずかに違いますね。M1で使われていたポンプカバーが移植されています。でもその程度の違い。
ブランド名こそ違えど、中身はほぼ一緒です。

初期のM320にはシルバーカラーのタンクしかありませんでした。
Bialaddin 315、320と、シルバーカラーがメインでしたから、塗料の在庫がそれなりに残っていたのでしょう。シルバーカラーのモデルは80年代初旬まで製造されていました。

M320が「ハリーポッターと死の秘宝」のワンシーンで使われていたのは有名な話ですが、あれもシルバーです。
イギリスでM320といえば、完全に軍向けのみに支給され民間認知が広がらなかったアーミーグリーンより、シルバーのほうが認知度が高いのかもしれませんね。




電力が家庭に行き渡った1970年代。VAPALUXはもはやほぼ軍用のみを製造していたのですが、1970年代初頭から80年代初頭にかけて、2度発生したオイルショックによって、民間での電力利用が制限される事態が発生し、一時的に民間での灯油ランタンの需要が急騰します。
このバブルをWillis and Batesも見逃さず、民間向けに多くのカラーバリエーションを展開して販売したようです。
ブルーやオレンジのタンクカラーを持った個体を稀に見かけますが、どうやらリペイントではなくてオリジナルのようです。写真のChromeもこの頃にアップグレードモデル(Additional feeがかかる)として製造されました。

当時は、今は廃業している英国のタバコメーカー「Rothmans」の懸賞に、RothmansのブランドカラーのブルーのフードをかぶったChromeタンクのM320が提供されたこともあったようです。
実物の写真はTerrence Marshさんのサイトで見れますが、今となっては贅沢な話です。




これはこの時期のChromeバージョン(Chromeバージョンはこの後2回復刻されています)にしか見られないのですが、黒ノブにVAPALUXの刻印がない(ニコちゃん矢印だけ)のモノをたまに見かけます。
なぜこのノブがわざわざ作られてChromeバージョンにのみ適用された(しかもまばらに)のか、さっぱりわかりませんが、1970年代の特徴を備えているモノに限って見られるので、この時期だけの特徴のようです。




いつ頃からかわかりませんが、まだシルバーカラーが標準だった1970年代後半あたりに、プレヒーターカップの足の仕様が変わります。
以前の足はヴァポライザーの付け根にはめるスタイルでしたが、このタイプはノブの付け根に乗っけるように使います。

プレヒーターカップはこれまで結構工夫を凝らされてきていますが、最終的には足のない、シンプルなカップ(現行の韓国製もこれ)になります。
これはIan Ashton氏の本の中でも書かれていますが、Willis and Batesも色々工夫した(特許まで取得した)ものの、結局「足、いらなくない?」ということで落着したそうです。

北欧系ランタンと違い、TilleyやVapaluxなどの英国系ランタンではウィックが付いているので、プレヒートの炎はそれなりに大きく立ち上がり、プレヒートカップを動かさなくても十分にヴァポライザー先端を熱することができます。(Petromaxが炎上しやすいのは、プレヒートの熱がヴァポライザー上部に届きづらいことにあると私は思っています)
私もこのタイプのプレヒーターカップを使ってプレヒートする際、上げるのを忘れてしまうことがよくありますが、そのせいで炎上することはありません。プレヒート・ウィックがあるのとないのとでは大違いですね。


M320の紹介としてはこのあたりでちょうど半分くらい。
まだまだ先は長いので、今回は一旦ここで区切ります。続きは・・・できるだけ早めに書き上げますね。