2021/04/22 00:38
第4段の今回は、Vapaluxのモデル系譜の中で一番の謎ゾーンである、Bialaddin 305 〜 Vapalux M1について触れてみます。
これまでの記事はこちら。
Willis and Bates と Vapalux / Bialaddinの系譜 ①
Willis and Bates と Vapalux / Bialaddinの系譜 ②
Willis and Bates と Vapalux / Bialaddinの系譜 ③
このBialaddin 305 〜 Vapalux M1にかけてはホントに謎なので、私の推察が間違えてる可能性は余裕であります。色々調べてたどり着いた答えなんですが、自信があるかと言われたら、自信をもって「ない!」と言い切れる程度の推察です。参考程度どころか、フィクションだと思ってご覧ください。
ちなみに、タイムラインではBialaddin 305と Vapalux M1との間に、Bialaddin 310と315が存在しますが、Bialaddin 305とVapalux M1はつなげてご紹介しないと余計にややこしくなるので、ここはタイムラインを無視します。310と315は次でご紹介しますね。
さて、なにがややこしいかと言うと、まずBialaddin 305 は、同じモデル名で2つのデザインが同時に存在しました。民間用と軍用です。
「いきなりどゆこと???」と思われた方。それが普通の感覚です。私も最初は理解できませんでした。
Bialaddin 300Xの仕様を引き継いでBialaddin 305が登場したのが1951年ですが、その後しれっとM1に引き継がれるデザインを持つBialaddin 305(軍用)が登場します。これらの並行生産は1954年のBialaddin 310のリリースまでの間続き、やがて310がリリースされると、民間向けには310が、軍用には305(軍用)がそのまま納入され続けます。
民間用はさらにBialaddin315、320とアップデートされますが、軍用は変わらず305(軍用)のまま。結局軍用は、Aladdin Industriesとの提携を解消する1968年まで、305(軍用)のままモデルチェンジせずに継続してしまいます。
早速ですがここからは推察です。
Bialaddin 300Xのフレームはいかにも華奢です。たまに曲がってしまっている個体をみますが、民間でもそうなら、軍での酷使にはなかなか耐えられなかったのではないかと思います。
とはいえ民間には絶大な人気を誇った300X。Bialaddinはそれをモデルチェンジをするにあたって先にテストマーケティングを行いますが(300X後期型(1949年〜1950年))、やっぱりどうにも人気がある。
主に民間市場を主戦場とするAladdin Industriesとしては次のモデルも300Xのテイストを踏襲したテストマーケティング機を採用したい。一方で軍納品を主戦場としていたWillis and Batesとしては、軍から「ちょっとフレームが弱いんですけど」と文句を言われると対応せざるを得ない。
そこで民間向けには300Xのデザインから給油口キャップを小さくしただけのマイナーチェンジに止め、軍向けには新たなモデルを生み出すことにしたのだと、そう推察しています。
軍向けのBialaddin 305は、軍から絶大な支持を得るに至ります。Aladdin Industriesとの提携解消後も305デザインでの納入を要望し続けていることを考えると、よほど使い勝手がよかったのでしょう。見るからに頑強ですもんね。
そのためWillis and Batesは、ブランドをVapaluxに戻して納入をし続けるのですが、モデル名も決まらないまま納入を継続したため、当初のこのモデルにはモデル名がないという、私たち後世のファンを悩ませる状態を生み出してしまいます。
やがてこの"元Bialaddin 305"には「M1」という名前が付くのですがそれはずいぶん後、このデザインが民間用にリバイバルされたときのことで、M320に軍用の座を譲るまでの約10年間はカラーの刻印も「VAPALUX」だけ、箱のラベルにも「 H.P. No.1 」「ONE」と記載されているだけで、名無しの権兵衛状態が続いていました。
そこでさすがに呼び方に困った人たちが、たまたま軍の識別コードとして刻印されていた「21C」を使って、あるいはケースに書いてあった「HP1」を使って符号で呼び始めます。
これがVapaluxブランドに戻って以降、このモデルが「21C」や「HP1」と呼ばれている背景です。
ちなみにBialaddin 305からその後のVAPALUXまで、カラーに刻まれた刻印には「A.M.」で始まるもの、「W.O.」で始まるもの、「21C」で始まるものとがあります。
ちなみにBialaddin 305からその後のVAPALUXまで、カラーに刻まれた刻印には「A.M.」で始まるもの、「W.O.」で始まるもの、「21C」で始まるものとがあります。
「A.M.」は「Air Ministry(イギリス空軍省)」、「W.O.」は「War Office(イギリス陸軍省)」の略だというのはわかるのですが、「21C」とはなんなんでしょうね?SASとかの特殊コマンド部隊かなにかかな?
結局Bialaddin 305(軍用)型のこのデザインは、1951年のリリースから1979年にM320にその座を譲るまで、28年もの間、軍用ランタンの座に居座り続けました。その間に民間用は305、310、315、320と、4世代もモデルチェンジしてるにもかかわらずです。
しかもM320に軍用機の座を譲ったあともM320に並行して、民間用のM1(シルバーペイントのタンクを持つモデル、ここで初めて名前が刻印される)が登場して、余計にややこしくしてくれます。
しかもM320に軍用機の座を譲ったあともM320に並行して、民間用のM1(シルバーペイントのタンクを持つモデル、ここで初めて名前が刻印される)が登場して、余計にややこしくしてくれます。
以上はほとんどが私の推察ですが、推察とはいえこのモデル変遷の流れをようやく掴むことができた私ですら、いまだに混乱します。こうやってテキストで書いてみて、ようやく私の頭の中も整理できました。
・・・また今回も前置きが長くなってしまった。
■Bialaddin 305(民間用)(1951年〜1954年)
1951年にリリースされた民間用のBialaddin 305ですが、ほぼほぼ同型が1949年後半からBialaddin 300X(後期型)としてデビューしています。
Aladdin Industriesのマーケティング手法を考えると、Bialaddin 300XのデザインがBialaddin 305(民間用)に引き継がれたのではなく、新しいデザインのテストマーケティングをBialaddin 300Xのマイナーチェンジとして行い、その後に正式なモデルチェンジを行った、というのが正しいでしょう。
Aladdin Industriesのマーケティング手法を考えると、Bialaddin 300XのデザインがBialaddin 305(民間用)に引き継がれたのではなく、新しいデザインのテストマーケティングをBialaddin 300Xのマイナーチェンジとして行い、その後に正式なモデルチェンジを行った、というのが正しいでしょう。
上の写真は300Xと305を並べてみた写真です。左が300X、右が305ですが、違いがわかりますか?
給油口キャップのサイズが違うだけなんです(フレームのスポークが片方はクロム加工されてますが、これは元のタンクカラーとの組合せでの違いです)。
コスト削減か、軽量化か、はたまた両方か・・・300Xとしてのテストマーケティング結果を得て変更されたのがここだけとは、よほどの人気だったんでしょうね。
■Bialaddin 305(軍用。W.O刻印が多い)(1953年〜1968年)
世界中のランタンを見渡しても類を見ない、かなり独特のデザインを持つ軍用305ですが、製造開始がいつなのかはどこにも書かれていませんでした。
私が実物で確認している一番古い305(軍用)は1954年製。写真では1953年の刻印まで確認しています。また同じく写真では、上の民間用デザインの軍用刻印持ち(1954年製)も確認しています。
つまり、1953年あたりからこのデザインは製造され始めたようですが、Bialaddin 310が発売される1954年までの間は民間用とされる300X型のモデルでも軍に納品されるケースがあったようです。
非常にややこしい・・・
初期のBialaddin 305(軍用)には、たまに↓ではなくデザインされたブロードアローの刻印が入った個体を見かけることがあります。どんな条件でこれが刻印されたのかさっぱりわかりませんが、後のM320のタンク裏の刻印デザインは、これが最初の登場になります。
フードは300Xと同じ以前のツーピースのテイストを残したワンピースフードと、この時期にリリースされた現在のM320につながる1枚板で成形されたワンピースフードの両方が混在します。
しかしそれにしても、先にも書いたとおり独特のデザインです。一言で言えば「無骨」。サブタイトルつけるなら「〜唯我独尊〜」。
これデザインした人、天才ですね。これほど軍仕様に向くデザインはないでしょう。
300Xの弱点だったフレームを「もう絶対に曲げられんけんね!」と言わんばかりに強化しています。300Xや民間用305との違いは実はここだけ(フレームが分厚くなった分、止めるボルトが少し長めに変化してますけど)なんですが、たったこれだけでこんなに雰囲気変わる!?と、驚くばかりの変化です。
しかも無骨なのにフレームはアルミなので軽い。
民間用305は給油口サイズが1inchに小さくなりましたが、こちらは1.25inchのまま(デザイン的にはVapalux 300と同じ)です。これも給油しやすさのために以前の仕様を残したのでしょう。どこまでも軍仕様ですね。
しかしそれにしても、先にも書いたとおり独特のデザインです。一言で言えば「無骨」。サブタイトルつけるなら「〜唯我独尊〜」。
これデザインした人、天才ですね。これほど軍仕様に向くデザインはないでしょう。
300Xの弱点だったフレームを「もう絶対に曲げられんけんね!」と言わんばかりに強化しています。300Xや民間用305との違いは実はここだけ(フレームが分厚くなった分、止めるボルトが少し長めに変化してますけど)なんですが、たったこれだけでこんなに雰囲気変わる!?と、驚くばかりの変化です。
しかも無骨なのにフレームはアルミなので軽い。
民間用305は給油口サイズが1inchに小さくなりましたが、こちらは1.25inchのまま(デザイン的にはVapalux 300と同じ)です。これも給油しやすさのために以前の仕様を残したのでしょう。どこまでも軍仕様ですね。
ミリタリー好きな方々にとってはたまらないでしょう。私はそこまでミルスペックマニアではないのですが、それでもたまらないです。
軍でよく使われていたホワイトのリフレクターが本当によく似合います。
軍でよく使われていたホワイトのリフレクターが本当によく似合います。
■VAPALUX のなにか(軍用、名無し)(1968年〜19??年)
さて、困ったちゃんの登場です。
書くのも困るのでタイトルも「のなにか」としましたが、他に書きようがありません。なんせカラー部の刻印は「VAPALUX」とあるのみで、型番もなければ軍用の刻印もありません。軍の払い出し品を直接入手したので確かに軍用なんですけどね。いつまでこの状態だったんでしょう?
ご覧の通り、ほぼほぼBialaddin 305(軍用)と変わりませんが、給油口キャップが1inchにサイズダウンしています。軍のためとはいえ2種類のパーツを並行で生産するのはいかにも無駄ですからね。といってもBialaddin 305のリリースから約15年後のことです。
冒頭の長い前置きでほぼ全ての推察を記載しましたのでここでは割愛しますが、それにしても名無して・・・
民間向けは310、315、320と型番が進行するなか、なんとこの状態が11年も続きます。
悪者のように書いちゃっていますが、今となってはこの「VAPALUX」しか刻印のない個体は個体数が少なく、なかなか巡り合えないある意味レアモノ?です。良くも悪くもキャラ立ちはピカイチです。
■VAPALUX のなにか(軍用、21C刻印が多い)(19??年〜1979年)
つづいて「21C」です。さきの「のなにか」と仕様上の違いはありません。なぜならこちらも「のなにか」なので。
違いは、ただただ納め先指定の刻印が入っているだけです。
21C刻印持ちの一番古い製造年で1972年は取り扱ったことがありますが、それより古いのもあるのでしょうか?
1968年にVapaluxに戻って以来、納め先の刻印がなかった期間がどれほどなのか、このあたりは今後地道に調査していきます。
21Cは今でも軍放出品としてそこそこの流通量がありますので比較的入手しやすいですしね。
1968年にVapaluxに戻って以来、納め先の刻印がなかった期間がどれほどなのか、このあたりは今後地道に調査していきます。
21Cは今でも軍放出品としてそこそこの流通量がありますので比較的入手しやすいですしね。
Vapalux M1は1979年に生産を終了し、軍用機としてのバトンをM320に渡します。
■VAPALUX M1(民間用)(1980年代?)
M320に軍用の座を譲った後に、民間向けにリバイバル発売されたモデルです。ここで初めて「M1」という名前がお披露目されます。
タンクカラーがシルバーなのは、同時期のM320はシルバーがメインだったからでしょう。M320が軍納され始めた当初は軍用もシルバーでした。
話は変わりますが、私はAladdin Industriesとの提携解消後、Vapaluxとして軍に納品されたこのモデル全てを「M1」と呼ぶようにしています。「21C」はモデル名ではありませんし、「名無し」と呼ぶわけにもいかず、となると後年のこととはいえこのモデルにVapaluxとして命名した「M1」と呼ぶのが一番しっくりくるからです。
・・・ところがですね。上の写真をよ〜〜〜〜く見てください。
「これ、M1じゃなくてM.I.じゃね?」と思うのは私だけでしょうか?
英国本国の御大、Ian Ashton氏ですら彼の書籍で「M1」と書いています。そんなわけでまたややこしくなるので、これには触れないようにしています・・・
色々調べて謎解きはしたものの、いまだにだいぶ自信がありません。かなりいい線いってるとは思いますが、まだ多少の誤差や憶測違いはありそうです。
いずれにせよこのM1タイプのデザインは、よほど軍に気に入られていたのでしょう。野太いアルミキャストのフレームは見るからに頑強で、高い耐久性とメンテナンス性を備えたこのデザインは他国のケロシンランタンを見渡してもない、独特のデザインですから、その後のモデルチェンジをスルーして軍が愛用し続けるのも無理もありません。
時は冷戦。表立った争いはなくとも水面下では小さな軍事行動が蠢いている時代でしたし、またアフリカをはじめ南米・カリブ海の植民地が次々に独立を果たす時代でもありました。
植民地の独立には、実はイギリス側も植民地を維持し続けるコストが馬鹿にならず、政府としては植民地の独立は暗黙の了解だったようなのですが、軍部はそうではなかったようで、そのためフォークランド紛争のような小競り合いも発生しています。
次世代の経済圏のいち参加者としての立場と、前時代の世界の覇者としてのメンツとの狭間で揺れ動く中、小競り合いがある度に東奔西走を余儀なくされた部隊にとっては、多少手荒く扱っても壊れづらいランタンはさぞ心強かったことでしょう。
M1は、唯一ボロボロに使い倒された状態に強い色気を感じるモデルです。こんなデザイン、他にありません。
「どう使ったらこうなるの???」と思わせるような、塗装パケパケ、フードのエナメルもボロボロなM1は、とんでもないオーラを漂わせてくれます。軍幕にもっとも似合うランタンの1つであることは間違いありません。
悪口ばかり言ってるようですが、感覚的には「腹立つほどかっこいい」というのが私の中のM1への評価というか敬意です。
ふう・・・M1についてはまだまだ書き足りませんが、ちょっと長すぎるのでこの辺で。
次回はちょっとタイムラインを戻して、民間用として流通したBialaddin 310、315、320と、Aladdin Industriesとの提携解消までを掘り下げてみます。
次回はちょっとタイムラインを戻して、民間用として流通したBialaddin 310、315、320と、Aladdin Industriesとの提携解消までを掘り下げてみます。