2021/04/04 00:01
こんにちは。Gordon's gardenparty です。
前回の投稿ではVapaluxの大まかな年表をご紹介しました。大まかと言いつつもイベントが多すぎたのでそれをさらに4つのグループに分けたのですが、今回はその1つ目のグループ「戦前・戦中期」について触れたいと思います。
これまでの記事はこちら。
Willis and Bates と Vapalux / Bialaddinの系譜 ①
前回の投稿ではVapaluxの大まかな年表をご紹介しました。大まかと言いつつもイベントが多すぎたのでそれをさらに4つのグループに分けたのですが、今回はその1つ目のグループ「戦前・戦中期」について触れたいと思います。
これまでの記事はこちら。
Willis and Bates と Vapalux / Bialaddinの系譜 ①
・・・と、その前に。
日本では「Vapalux」という呼び名が有名で定着していますが、当初「Vapalux」はブランド名にあたり、製造メーカーは「Willis and Bates」でした。1938年に市場に登場した「Vapalux」は、1997年に工場を含む製造に関する全ての権利をBairstow Brothersに売却され、その後2010年に韓国企業に譲渡されそこで会社名に変わります。
こうした流れは他の業界でもありますね。IBMのラップトップPCブランドだったLenovo(旧Think Pad)は、今や中国メーカーですし。
さてそのWillis and Bates社ですが、街灯などの金属加工技術を持っていたAlfred Batesと、同じく金属加工やランプ製造の技術を持っていたChristopher Charles Willisが1899年に出会い提携するところから始まります。翌年の1900年にはイギリス Halifax のReservoir Roadというところに「Pellon Works(ペロンワークス)」という自社工場を開業。PellonというのはHalifaxにある地名です。
Halifaxはイングランド北部、ManchesterとLeedsの間にある町で、アパレルの方ならご存知かもしれませんが、上質なウールの生産地としても有名ですね。
Pellon Worksはいきなりランプを製造しはじめたわけではありません。やり手だったAlfredはイギリス軍のヘルメットの成形にも関与、金属加工分野で様々な特許を取得し、技術顧問として一時はあのゼネラルエレクトリック社とも提携していたようです。
ランプを本格的に作り始めたのは1925年、TILLEYと提携したときからです。その前にもいくつかのランプメーカーへのOEM生産をしていたようですが、TILLEYとの提携は比較的長く(1938年まで)、その間に数多くのランプをOEM生産しました。
この背景から「VapaluxはTILLEYが源流」と言われていますが、実際は少しテイストが違っているようで、当時のTILLEYのランプデザインに、Alfredが持つ様々な特許技術が活かされたと言ったほうが正しいようです。
とにかく、こうして「Pellon Works」という小さな町工場は、1927年9月7日に「Willis and Bates Ltd」を設立するに至ります。
Willis and Bateの、会社としての設立はこのタイミングです。
Willis and Bateの、会社としての設立はこのタイミングです。
とはいえ会社設立後も彼らにとってランタン製造は仕事の一部でしかなく、あくまで金属加工業として外灯や軍需製品の製造がメインでした。
・・・ちょっとあまりにもランタンが出てこないので、10年ほど端折ります。
■Vapalux E41
1938年に立ちあげた「Vapalux」ブランドの最初の製品として、E41が発売されます。
1938年に立ちあげた「Vapalux」ブランドの最初の製品として、E41が発売されます。
私は現在残念ながら初期のE41は持っていないので「Classic Pressure Lamps and Heaters」からお借りしました(怒られたら取り下げます)。
こちらの写真のE41は、Ian Ashton氏のコレクションの1つです。長年の月日に積み重ねられたブラスの鈍色がたまらない。もはや木です。木。
創業から11年、TILLEYへのOEM提供を辞め、自社ブランドでのケロシンランタン製造・販売のスタートです。
それなりに自信はあったのでしょうが、それでもこうした大きな事業転換は相当シビれたことでしょう。
この初期のE41はイングランド空軍(Royal Air Force。RAF)への納品用として作られています。カラーはRAF公式カラーのブルーグレイ。Rapidal Grey(ラピダル・グレイ)と呼ばれていて、この色は1944年まで標準カラーだったようです。
掲載させていただいた写真のように初期のE41の給油口キャップは圧力計(マノメータ)になっています。現在のキャップに付いているようなエアリリース機能はなく、マノメータとポンプの間にある丸いボタンがその機能を果たしています。ですが加圧しすぎてもトラブらないことは実証されていたため、どうやらWillis and Bates側はマノメータは不要と考えていたようです。次のバージョンからはなくなります。
フードの構造もこの当時はかなり贅沢です。
形状の複雑さもさることながら、内部構造も大きく異なり、現在のVapaluxの外見的な特徴の1つに「外部に露出したエアボタン」がありますが、E41にはありません。フードの中にギャラリー(ペトロマックスなどで言うインナーチムニーのようなパーツ)があり、それにバーナーが接続されています。このデザインと構造はE41にのみ使われました。
形状の複雑さもさることながら、内部構造も大きく異なり、現在のVapaluxの外見的な特徴の1つに「外部に露出したエアボタン」がありますが、E41にはありません。フードの中にギャラリー(ペトロマックスなどで言うインナーチムニーのようなパーツ)があり、それにバーナーが接続されています。このデザインと構造はE41にのみ使われました。
また、第二次世界大戦前であるこの時期のモデルのタンクは現在と同じブラス製ということも特徴の1つです。
■Vapalux 300
1941年には、E41のモデルチェンジと合わせて Vapalux 300 が発売されます。
1941年には、E41のモデルチェンジと合わせて Vapalux 300 が発売されます。
こちらはinstagramでもご紹介した、黒くくすんでしまっていますが、オリジナルカラーの面影を残したVapalux 300。1942年製。
Vapalux 300も当初のタンクはブラスですが、1942年からスチール製タンクが混ざり始めますので、この年に戦争による民間での真鍮の使用制限が入ったものと思われます。真鍮は薬莢に使われますからね。相当量の消費だったことでしょう。
E41との違いはまずフード。現在につながる、エアボタンが露出したデザインに変わります。ただし形状は現在と異なり6角形。上部には縦長の大きなホールが空いています。
フィーエル キャップからはマノメータがなくなり、現在のエアリリース機能を持ったキャップに変わります。
フィーエル キャップからはマノメータがなくなり、現在のエアリリース機能を持ったキャップに変わります。
コントロールノブを通すカラーの穴の形状も、Bialaddin300Xなどにみられる角丸三角形ではなく、少しデザインされた柔らかい円形を用いているのも特徴の1つです。
この当時のキャップには刻印があるものもあります。
これがない個体もあり、どういうルールで刻印されていたのか、いまいちわかっていません。時期によるものなのか、はたまた依頼によるものなのか・・・
これがない個体もあり、どういうルールで刻印されていたのか、いまいちわかっていません。時期によるものなのか、はたまた依頼によるものなのか・・・
キャップの左奥にブラス製の突起が見えますが、こちらはTILLEY X246 Guardsmanなどにもみられる圧力突起(イギリスでは"tit(乳首)"と呼ばれています)です。キャップ仕様を変更してマノメータがなくなったことの代用に実装されましたが、その後のモデルからはこれも消えました。
また、かろうじて写っているフレーム基部にもパテントナンバーの刻印があるのがわかります。
スチールタンクには、ブラスタンクにはない「寂び」があるように感じます。この個体が特にそうなのかもしれませんが。真鍮の使用制限という限られた条件で生まれたスチールタンクですが、この「寂び感」は、特殊な条件が産んだ奇跡の産物なのかもしれません。
こちらは1945年製のVapalux 300。こちらもスチールタンクですが、かなり正確な調合色でリペイントされています。
初期の個体と比べるとフードの刻印も大きくなり、またカラーの作りが変わっています。
初期の個体と比べるとフードの刻印も大きくなり、またカラーの作りが変わっています。
スチール製のタンクはとにかく錆が出るのでリペイントは正しい判断なのですが、やはり程よく塗装が剥がれた状態に色気を感じてしまいます。悩ましいところです。
E41、300共通の特徴としては、通称「スクワッド・スタイル」と呼ばれるタンク形状があります。
タンク上部から下部に向かう曲線が急激にカーブしていて、しゃがみこんだような形状をしているのでこう呼ばれていますが、Bialaddin 300X以降はもっとなで肩なデザインに変わります。
またベイル(ハンドル)の形状もそれ以降のモデルとは微妙に異なります。ややなだらかなカーブを描いており、フードと接続するナット部のブラスボタンもやや厚めです。これも何気に替えの効かないパーツの1つです。
2台のフードの刻印を並べてみました。
ともに製造年とブロードアローの刻印が縁にあるのは共通なのですが、ブランドロゴの刻印が全く異なります。1942年製の刻印は控えめな刻印、1945年製のそれはエンボス加工が施されたかなり目立つ刻印です。1943年製のエンボスロゴを見たことがあるので、控えめ版は1941〜1942年までだったんでしょうか。
ともに製造年とブロードアローの刻印が縁にあるのは共通なのですが、ブランドロゴの刻印が全く異なります。1942年製の刻印は控えめな刻印、1945年製のそれはエンボス加工が施されたかなり目立つ刻印です。1943年製のエンボスロゴを見たことがあるので、控えめ版は1941〜1942年までだったんでしょうか。
スチールタンクには、使用上の注意を示すデカールがデカデカとタンクに貼られています。翻訳すると「このタンクは鉄製です。錆を防ぐために使ったら週に1回は必ず空にして掃除してください」とのこと。
・・・めんどくさいご指示。まあ掃除まではアレとしても、使い終わったら灯油を抜く程度の習慣は付けたいですね。
・・・めんどくさいご指示。まあ掃除まではアレとしても、使い終わったら灯油を抜く程度の習慣は付けたいですね。
これまでほとんどのランタンを軍に納めるために製造してきたWillis and Batesですが、1945年前後からアメリカのAladdin Industriesとの距離が急激に縮まっていきます。Aladdin側はEU進出を果たすため、Willis and Bates側はAladdinのUS仕立てのマーケティング手法を手に入れるため、それぞれ利害が一致したようです。
当時電気網はすでに配備されていましたが、まだまだ一般家庭全域には行き渡っていない時代。軍向けの確実な販路はあるものの、さらなる成長を遂げるには民間への販路拡大が事業課題だったのでしょう。
次回はこのAladdin Industriesとの業務提携から始めたいと思います。
次回はこのAladdin Industriesとの業務提携から始めたいと思います。