2021/04/14 22:36
これまでの記事はこちら。
Willis and Bates と Vapalux / Bialaddinの系譜 ①
Willis and Bates と Vapalux / Bialaddinの系譜 ②
前回はAlfred BatesとChristpher Willisが出会う1899年から、Vapalux 300がリリースされるまでの、創業〜戦前・戦中期について書かせていただきました。
今回は戦後すぐのAladdin Industries UK(CEOはイギリスの企業家、Jack Imber氏)との提携にまつわる背景と、その時期に生まれたVapalux 300XとBialaddin 300Xについて触れていきたいと思います。年表で言うと1945年〜1950年頃にあたります。
今回は戦後すぐのAladdin Industries UK(CEOはイギリスの企業家、Jack Imber氏)との提携にまつわる背景と、その時期に生まれたVapalux 300XとBialaddin 300Xについて触れていきたいと思います。年表で言うと1945年〜1950年頃にあたります。
Aladdin Industriesと言えば、現在でもブルーフレームヒーターやグラファイトグリル&トースターのメーカーとして今も健在ですね。
Bialaddinの「Bi」は、「2つの」を表す接頭辞の「Bi」かと思われます。金属合板のBi-Metal、身近なところだとBicycle(バイシクル)やBilingual(バイリンガル)などで使われますね。直訳すると「2つのアラジン」。Aladdinが立ちすぎですが、2社協業を表すブランド名ということだったのでしょう。
前回書いた通り、Willis and Batesは一般向けのマーケティング強化を、Aladdin IndustriesはEU(当時はEC)圏への進出を目論んで、それぞれの利害が一致しての提携でしたが、Willis and Batesとしては、大戦の終焉に伴って軍事需要だけでは思うような利益をあげられなくなり、民間市場への参入が急務だっただろうことは容易に想像がつきます。バブルは終わったということですね。
Bialaddinブランドのスタートは1946年のことなのですが、協業はその前年の1945年からで、テストマーケティングを開始しています。
1945年にリリースされたVapalux 300Xは、まさにテストマーケティング機として民間市場に投入されました。
1945年にリリースされたVapalux 300Xは、まさにテストマーケティング機として民間市場に投入されました。
■Vapalux 300X
Vapalux 300Xの手持ちがないので、手持ちのVapalux 300とBialaddin 300Xのパーツを組み合わせて、擬似Vapalux 300Xを作ってみました。
フランケンシュタインなので刻印は異なりますが、そこはご容赦ください。
この「X」は、Export(輸出用)モデルであることを意味しているようです。
形状的にはVapalux 300とほとんど違いがないように見えますが、ベンチレータの刻印に”300X”と、Xが追加され、300では縦長の大きなホールベンチレータの吸気口もスポット状の穴に変わっています。
形状的にはVapalux 300とほとんど違いがないように見えますが、ベンチレータの刻印に”300X”と、Xが追加され、300では縦長の大きなホールベンチレータの吸気口もスポット状の穴に変わっています。
300Xの初期型こそ300と同じプレヒーターカップを備えていましたが、すぐにその後のBialaddin 300Xの標準仕様となるプレヒータープレートに変更されました。それに合わせてグローブの仕様もプレヒート用の着火穴がなくなり、ほんの少し短くして着火時に上下に動かせるように変更されました。
どちらも、光に集まる習性のある虫が入り込むのを防ぐためだったようです。虫が入ると場合によってはマントルを破っちゃいますからね。
タンクはブラスに戻っていますが、デザインはスクワッドスタイルのままです。
民間向けを意識したからか、当時のタンクカラーのバリエーションには「クリーム」「マルーン(暗赤茶色、栗色)」「ブルー」「アーミーグリーン」などがあったようです。Classic Pressure Lamps にはIan氏所有のマルーンの300Xの写真がありましたが、当時の塗装のまま良い状態で残っている個体は限りなく少ないでしょう。
Vapalux 300Xは、Bialaddinブランドのスタートまでの1年弱しか製造されなかったことから、現在となっては非常に希少なモデルで、市場で見かけることはなかなかありません。たまに見かけるモノもフードの刻印はVapalux 300XでもタンクはBialaddin 300Xのモノだったりして、完全なオリジナルの入手は非常に困難です。
■Bialaddin 300X 前期型(1946年〜1949年)
テストマーケティングが終了し、本格的にAladdin Industriesによる民間販売を始めるにあたり、1946年に「Bialaddin」というブランドがスタートします。その最初のモデルとして発売されたのがBialaddin 300Xです。
テストマーケティングが功を奏したのか、Bialaddin 300Xは民間市場で大反響を呼び、売れに売れたようです。約70年前のランタンですが現在でもこれだけヴィンテージ流通があるということは、その裏付けでもありますね。
上のBialaddin 300Xはリリース初期のモノ。Vapalux 300Xにかなり似ていますが、いくつかの変更点が見て取れます。
まずフード。スポット穴のベンチレータはそのままですが、フードTOPのデザインが丸みのあるデザインに変更されています。
またタンクもほんの少し直径を小さくし、スクワッドスタイルから丸みを帯びた、Bialaddin 315まで続くより撫で肩のデザインに変わっています。このタンクデザイン変更の理由は、民間市場に向けた軽量化にあったようです。
まずフード。スポット穴のベンチレータはそのままですが、フードTOPのデザインが丸みのあるデザインに変更されています。
またタンクもほんの少し直径を小さくし、スクワッドスタイルから丸みを帯びた、Bialaddin 315まで続くより撫で肩のデザインに変わっています。このタンクデザイン変更の理由は、民間市場に向けた軽量化にあったようです。
ブランドロゴは、初期はVapalux 300Xと同じようにベンチレータ部に刻印されていましたが、その後カラー部に移ります。ベンチレータの縁への刻印はエリア的にどうしてもフォントを小さくする必要がありますが、カラーならデカデカとロゴを刻印できますもんね。
上の写真の個体は、ベンチレータとカラーの両方に刻印を持つ、非常に珍しい個体です。端境期に製造されたものと思われます。
■Bialaddin 300X Militaryモデル
上の写真の個体は、ベンチレータとカラーの両方に刻印を持つ、非常に珍しい個体です。端境期に製造されたものと思われます。
■Bialaddin 300X Militaryモデル
Bialaddin 300Xは軍にも納められていて、そのなかには軍用M1の刻印として有名な「21C」の刻印を持つものもあります。
上の写真はその「21C」の刻印を持つ個体です。1949年製。フード使用が初期と同じなので1949年前半の製造かと思われます。ブランドロゴの刻印はカラー部にあるので、ベンチレータに刻印されていたのは1946年から長くとも1948年頃までと推測できますね。
「21C」は軍の識別コードの一種でしかなく、モデル名を表すものではないのですが、軍用M1に対する通称がいつの間にかモデル名のように扱われるようになりました。このあたりの背景はM1をご紹介する際にまた詳しく書いてみます。
■Bialaddin 300X 後期型(1949年〜1951年)
1949年後半には、フードデザインの変更があります。エナメル加工されたTOPパーツとベンチレータが分離したツーピース型から、Bialaddin 315まで使い続けられることになるロウ付けされたツーピースフードへの変更です。それに合わせてエアボタンも6角形から現在の丸型に変更されています。
またフレームもリベット止めされていたスポークがねじ込み式になり、スポークが曲がってしまっても交換が可能になりました。
■Bialaddin 300X 後期型(1949年〜1951年)
1949年後半には、フードデザインの変更があります。エナメル加工されたTOPパーツとベンチレータが分離したツーピース型から、Bialaddin 315まで使い続けられることになるロウ付けされたツーピースフードへの変更です。それに合わせてエアボタンも6角形から現在の丸型に変更されています。
またフレームもリベット止めされていたスポークがねじ込み式になり、スポークが曲がってしまっても交換が可能になりました。
給油口キャップのデザインにも変更があり、波のような縁取りがなされています。
■Bialaddin 300X Chrome
300Xにはクロムバージョンも存在します。当時の価格で6シリング(1/20ポンド)高い、高級バージョンだったようです。
またクロムバージョンは、政府高官向けに出荷されたバージョンでもあったようです。
クロムには息を飲む美しさがありますが、その反面皮膜が薄いことからお化粧面でのメンテナンスが非常に難しいという特性があります。表面はツルツルのようで目視では見えない小さな穴が無数にあるため、外で長期間放置してたりするとスポット状の白濁が発生したりそこから錆がでたりします。ブラスのように磨いての修復には限界があるため、無事な状態で現存していること自体が少ないバリエーションでもあります。
ご興味ある方は、購入する前にタンクの状態をよ〜〜〜〜くチェックされることをお勧めします。それなりのご高齢ですので多少の凹みは目をつぶっても、クロムの美しさはできるだけ維持できている個体が見つかるといいですね。
1つ1つ掘り下げていくと、やはりそれなりの量になりますね・・・
次回はBialaddin全盛期に作られた 305から、Vapalux M1につながる変遷ご紹介します。タイムラインは前後してしまいますが、その間にリリースされた310と315はその後に取りあげます。